最大の製造拠点台湾で労使確執…桃園労組が99.1%の賛成でストライキ権を確保
台中HBM新工場開設直後の22日に協議再開へ…供給に懸念の声
米メモリー半導体大手マイクロン・テクノロジーが広帯域メモリー(HBM)の生産を拡大する時期に合わせ、最大の製造拠点である台湾でストライキの危機に直面している。北部・桃園工場の労働組合がストライキ権を確保したのに続き、HBMの中核生産施設がある中部の台中でも労使交渉が続いている。人工知能(AI)向けメモリーの供給を増やすために新工場を稼働させたばかりのマイクロンにとって、生産スケジュールに支障が生じる懸念が出ている。
とりわけ台中は、今月15日に2か所目となる先端パッケージング・テスト工場が開所したばかりの場所だ。マイクロン経営陣は開所式で、2027年の生産能力に対する旺盛な顧客需要を強調した。新規設備の拡充と労使の対立が交錯する中、台中の労組は来る22日に会社側と追加の調停に臨む。
スト賛成99.1%…特別ボーナス4500万円でも収まらない台湾労組
台湾北部・桃園にはマイクロンDRAMの生産施設があり、現地の事業所には約3000人が勤務している。同地の労組は今月7日のストライキ賛否投票で99.1%の賛成率を記録した。投票対象の組合員2258人のうち2012人が参加し、1994人が賛成票を投じた。
労組の集団行動の動きは今年8月から表面化していた。当時、桃園と台中の労組が実施した内部アンケートでは、回答した組合員の80%以上がストライキ行動に賛成した。その後、桃園労組と会社側の調停が合意に至らないまま決裂し、正式なストライキ賛否投票へとつながった。労組は来る19日に台北で集会を開く計画であり、交渉の結果次第では電撃的なストライキも検討している。
労使が溝を埋められずにいる最大の争点は、インセンティブ(成果給)の配分方式だ。AI半導体の活況により会社の業績が改善する中、従業員側にも利益のさらなる還元を求めている。労組が提示した案は、営業利益の15%を成果給の財源として配分する長期的な利益共有制度だ。サムスン電子やSKハイニックスの業績連動型の報酬体系も比較対象として挙げられている。
マイクロンは先月、台湾の従業員に対し1人当たり最大100万台湾ドル(約4500万円)を一括支給する特別ボーナスの支給案を発表した。年次成果給や株式報酬も別途提示している。しかし労組は、一時的な報酬ではなく毎年の業績に応じて利益を分配する恒久的な制度の策定を求めている。
マイクロンにおけるHBMの中核生産拠点である台中でも交渉が進行中だ。台湾中部・台中には約1万2300人が勤務し、DRAMの製造やHBMの先端パッケージング・テスト施設が集中している。
台中労組の組織規模も急速に拡大している。台湾の『天下雑誌』によると、当初は約400人だった組合員が、韓国半導体企業による成果給引き上げの発表を受けて1万人以上に増加した。台中労組は桃園とは別に交渉を進めており、来る22日に協議再開を控えている。
494億ドルを投資した台湾HBM拠点…新工場稼働と労使確執が交錯
マイクロンは米アイダホ州ボイシに本社を置くが、台湾は同社にとって最大の製造拠点である。現地の従業員は約1万5000人、累積投資額は1兆6000億台湾ドル(約494億ドル)を超えている。
米企業の中核生産施設が台湾に置かれた背景には、現地半導体企業の買収がある。マイクロンは台湾のDRAMメーカーである瑞鋭科技(レックスチップ)やInotera Memoriesを買収し、生産ラインと熟練した技術人材を確保した。その後、既存設備の高度化と生産能力の拡大を進め、台湾を先端メモリー製造の中心軸へと育て上げてきた。
近年ではHBMの生産に欠かせない後工程への投資も拡大している。HBMは複数のDRAMチップを積み重ねて接続する高性能メモリーであり、ウェーハ製造だけでなく精密なパッケージングとテストが極めて重要となる。
マイクロンは今月15日、台中にて2か所目となる先端パッケージング・テスト工場「AATT2」の開所式を開催した。同社は、2027年のHBM生産量の大部分がすでに顧客企業に予約されており、2028年にかけてはHBMの需要増加ペースが一般DRAMを上回ると予測している。シンガポールでもHBMの先端パッケージング工場を拡充し、2027年から生産能力を引き上げる計画だ。
すでに相当量のHBMが顧客に割り当てられている状況下で生産に支障が生じれば、納品スケジュールにも影響を及ぼしかねない。台中でのストライキが現実のものとなれば、HBMのパッケージング・テスト工程に混乱をきたす可能性も排除できない。
マイクロンは米アイダホやニューヨーク、日本・広島などでも生産施設の拡充を進めている。しかし、半導体工場は設備の設置や試作、歩留まりの安定化に相当な時間を要する。台湾で生産に支障が生じても、他国の工場が短期間で代替生産を担うのは容易ではない。
HBM4の供給支障から収益性の圧迫まで…22日の交渉が分水嶺
半導体工場は生産ラインを連続稼働させなければならない。設備の保守・点検や工程管理に空白が生じれば、歩留まりや生産の安定性が揺らぐ恐れがあり、実際のインパクトはストライキの参加人数や期間、会社の対応によって異なる。
台湾の市場調査会社トレンドフォースも、ストライキによって設備の管理や工程のモニタリングに支障が出れば、DRAMの生産に影響を与える可能性があると警告している。
台中にはHBMのパッケージング・テスト施設が集中しているだけに、ストライキが現実化した場合に影響が及ぶ範囲はさらに広がる。HBMは一般DRAMよりも製造プロセスが複雑であり、顧客企業ごとの品質認証も重要なため、後工程の作業が遅れれば完成品の出荷スケジュールまで影響を受ける恐れがある。
仮にストライキを回避したとしても、労組による利益共有の要求はマイクロンにとって新たな重荷となる。代替証券(デエT・セキュリティーズ)は、台湾を次世代「HBM4」量産の中核拠点に挙げた上で、ストライキに伴う供給遅延の可能性に加え、利益共有制度の導入による人件費の増加を指摘した。労組の要求が受け入れられれば、マイクロンの営業利益率にも影響が及ぶという見方だ。
マイクロンは、サムスン電子やSKハイニックスとともに世界のDRAM市場を牽引する企業である。メモリーの供給が逼迫する中、生産の滞りが長期化すれば、顧客企業の物資確保や価格交渉にも影響を与えかねない。とりわけHBMは顧客ごとの認証や長期供給契約に基づいて生産が行われるため、他社が不足分を即座に肩代わりすることは容易ではない。
台湾政府も労使双方に対し、妥結に向けた協議を促している。台湾の頼清徳総統は今月15日の台中新工場開所式で、労使双方に誠実な対話を呼びかけた。台湾政府はマイクロンのHBM研究開発も支援している。
台中労組は桃園とは別に交渉手続きを進めているが、組合員規模が1万名を超えているだけに、交渉の結果が現地生産施設の運営に与える影響は小さくないとみられる。来る22日に予定されている追加の調停で、成果給の配分を巡る溝を埋められるか、あるいは交渉決裂によりHBMの生産スケジュールにまで支障をきたすかどうかが今後の最大の争点となる。







